被相続人が亡くなった場合には、相続人全員で話し合って遺産の分配を決めることとなります。
その際に、刑務所に入所中(服役中・在監中)の相続人がいるという場合もあります。
このページでは、刑務所に入所中(服役中・在監中)の相続人がいる場合の遺産分割の進め方について、ご説明させていただきます。

相続人が刑務所に収容されている場合の問題点

相続人が刑務所に入所中(服役中・在監中)の場合、遺産分割を行う際に以下のような問題があります。

連絡・協議に支障がある

遺産分割協議は、相続人全員が合意しなければ、有効に成立させることができません。
刑務所に収容されている相続人がいるからといって、その相続人を除外して遺産分割協議を成立させることはできません。

相続人が刑務所に収容されている場合、当然ながら自由に刑務所の外に出ることはできません。
電話やメール・SNSなどで自由に連絡を取ることもできないため、遺産分割を進めるのに支障が出るという問題があります。

印鑑登録が困難である

遺産分割の話し合いがまとまれば、遺産分割協議書を作成します。
そして、遺産分割協議書には、実印を押印する必要があります。

実印とは、市町村役場で印鑑登録を行った印鑑のことです。
実印を持っていなければ、まずは印鑑登録を行うこととなります。
印鑑登録は、印鑑を持って市町村役場の窓口に行けば、簡単に行うことができます。
しかし、刑務所に収容されている人は、自由に刑務所の外に出ることができず、印鑑証明のために市町村役場の窓口に直接出向くことができません。
この点、印鑑証明は代理による申請も可能であるものの、市町村役場から本人の住民票上の住所に照会書が送付され、回答申請を行う必要があるため、代理による申請も困難です。

印鑑証明書の取得が困難である

遺産分割協議の成立後、不動産の名義変更や預金の払戻などの手続を行うためには、遺産分割協議書に相続人全員の印鑑証明書を添付しなければなりません。

刑務所に収容されている人は、自由に刑務所の外に出ることができず、印鑑証明のために市町村役場の窓口に直接出向くことができません。
印鑑証明書の取得についても、代理による申請が可能であるものの、印鑑登録証を持参することが必要です。
印鑑登録証を用意できなければ、印鑑証明書を取得することは困難です。

刑務所で服役中の相続人がいる場合に遺産分割協議を成立させる方法

刑務所で服役中の相続人がいる場合には、遺産分割を行う際に上記のような問題があります。
しかし、以下のような方法により、刑務所で服役中の相続人がいる場合であっても、遺産分割協議を成立させられる可能性があります。

手紙・面会による協議を行う

遺産分割協議は、相続人全員が合意しなければ、有効に成立させることができません。
しかし、相続人全員が一緒に集まって話し合いをしなければならないというわけではありません。
各相続人から個別に同意を取り付け、最終的に相続人全員が合意に至るという形でも、問題はありません。

刑務所で服役中の相続人がいる場合でも、手紙を送ったり、面会をしたりすることにより、遺産分割に関する同意を取り付けることは可能です。

刑務所で服役中の相続人であっても、他の相続人と同様に法定相続分に応じて遺産を受け取る権利がありますので、その権利を無視することはできません。
刑務所で服役中の相続人の希望を聞きながら、合意の形成を目指すこととなるでしょう。

刑務所長の奥書証明書を取得する

相続人全員が遺産分割に関する合意に至った場合には、各相続人が遺産分割協議書に署名・押印する必要があります。
しかし、上記のとおり、刑務所で服役中の相続人は、実印で押印することや印鑑証明書を取得することが困難という問題があります。

この場合、遺産分割協議書に本人が拇印(指印)を押し、刑務所長の奥書証明書を取得することにより対応が可能です。
奥書証明書とは、刑務所長が「在監者の拇印(指印)が本人のものである」ということを証明する文書のことです。

不動産の相続登記は、印鑑証明書の代わりに、刑務所長の奥書証明書により手続を進めることができます。
金融機関で預金の払戻を行う際には、金融機関ごとに必要書類が異なります。
刑務所長の奥書証明のほかに、在監証明書(本人が刑務所に在監中であることを証明する文書)の提出を求められることがありますので、事前に金融機関に確認する必要があります。

勾留中の相続人がいる場合の対応

相続人が刑務所に収容されているのではなく、勾留中という場合もあります。
刑務所に収容されるのは、刑事裁判によって有罪の実刑判決が確定した場合です。
これに対し、勾留とは、起訴される前や、起訴されてもまだ刑事裁判が確定していない段階で、警察署の留置場などの刑事施設に身柄を拘束する処分のことを言います。

勾留されている場合も、自由に刑事施設の外に出たり、自由に外部と連絡を取ったりすることができないため、刑務所に収容中と同様に、遺産分割を行う際の問題があります。
しかし、勾留はあくまでも一時的な身柄拘束であるため、まずは釈放されるのを待つという対応をとるのがよいでしょう。

起訴される前の勾留は、最長で20日間の身柄拘束であり、不起訴となればすぐに釈放されます。
また、起訴された場合であっても、保釈手続をとることにより刑事裁判中でも身柄が解放されることがありますし、仮に有罪判決であっても執行猶予が付けば釈放されます。
このように、勾留については短期間で釈放される可能性がありますので、まずは釈放されるのを待ったうえで、釈放後に遺産分割協議を進めるのがよいでしょう。

遺産分割協議が成立しない場合の対応

遺産分割協議は、相続人全員が合意しなければ、有効に成立させることができません。
刑務所に収容されている相続人が遺産分割協議に協力してくれない場合や、遺産の分配の内容に同意してくれない場合には、話し合いによる解決は困難です。

そのような場合には、家庭裁判所に遺産分割審判を申し立てましょう。
この点、遺産分割については、遺産分割審判の前にまずは遺産分割調停による解決を試みるのが原則です。
しかし、刑務所に収容されている相続人がいる場合には、遺産分割調停を申し立てたとしても、その相続人は家庭裁判所に出頭することができませんので、調停による話し合いは困難です。
このように、遺産分割調停による解決が困難であると分かっている場合には、はじめから遺産分割審判を申し立てることが可能です。

遺産分割審判では、各相続人の主張や証拠資料をもとに、裁判官が遺産分割の内容を決定する審判を下します。

弁護士にご相談ください

以上のように、刑務所に収容されている相続人がいる場合でも、遺産分割の問題を解決することは可能です。
しかし、通常の遺産分割と比べて手続が複雑になりますので、相続問題に詳しい弁護士に相談しながらご対応いただくことをお勧めいたします。
当事務所では、相続問題に関するご相談・ご依頼を多数お受けしており、解決実績も豊富にございます。
刑務所に入所中(服役中・在監中)の相続人がいる場合の遺産分割についてお困りの方がいらっしゃいましたら、お気軽に当事務所にご相談いただければと存じます。

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