被相続人の財産の形成・維持に特別の寄与をした相続人がいる場合、その相続人に分配される遺産を増やし、実質的な公平を図る「寄与分」という制度があります。
この寄与分は、被相続人の介護を行った相続人がいる場合、特に問題となりやすいです。
このページでは、介護による寄与分が認められるための要件、介護による寄与分を主張するための証拠、介護による寄与分の金額について、ご説明させていただきます。

介護による寄与分が認められるための要件

介護による寄与分が認められるためには、次のような要件を満たす必要があります。

【介護の寄与分の要件】
①相続人による介護が行われたこと
②被相続人が介護を要する状態であったこと
③介護の内容が相当の負担を要するものであること
④介護が長期間継続していること
⑤介護が無償あるいはそれに近い状態で行われていること
⑥相続人による介護の結果、介護費の支出を免れ、被相続人の財産が維持されたこと

①相続人による介護が行われたこと

病院に入院・施設に入居していた時期は、医師の指示等により付添看護をしたような場合を除き、基本的には相続人による介護が行われたことにはならないでしょう。
ただし、相続人が医療費や施設入居費を負担した場合には、金銭等出資型の寄与分の対象となります。

また、寄与分が認められるのは相続人に限られます。
ただし、相続人以外の親族が被相続人の介護をした場合には、一定の要件を満たすことにより相続人に対して特別寄与料を請求することができます。
詳しくは、以下の解説ページをご覧ください。

●特別の寄与の制度について

②被相続人が介護を要する状態であったこと

要介護2以上であることが目安になります。
ただし、要介護認定は身体能力面を重視しており、認知症などにより常時監視が必要であるなど、要介護度だけでは判断できないこともありますので、具体的事情をもとに判断するべきでしょう。

③介護の内容が相当の負担を要するものであること

介護の内容が片手間でできるようなものでは足りず、かなりの負担を要するものである必要があります。
同居している被相続人の分まで一緒に食事を作ったり、病院へ行く際に付き添ったりした程度では、寄与分は認められません。

④介護が長期間継続していること

おおむね1年以上が目安とされますが、要介護度の軽重等も踏まえて総合的に判断されます。

⑤介護が無償あるいはそれに近い状態で行われていること

介護の対価として相当額を受け取っていたなどの事情があれば、寄与分は認められません。
ただし、介護の対価を受け取っていたとしても、それが通常の介護費用と比べて著しく少額であれば、無償に近いものと評価されます。

⑥相続人による介護の結果、介護費の支出を免れ、被相続人の財産が維持されたこと

寄与分が認められるためには、寄与行為と財産の形成・維持との因果関係があることが必要です。
話し相手になるなどして被相続人を精神的に支えたとしても、それだけでは寄与分は認められません。

介護による寄与分を主張するための証拠

介護による寄与分を主張するためには、次のような証拠を提出する必要があります。

【介護による寄与分の証拠】
①要介護認定に関する資料
②医師の診断書
③介護サービスの利用に関する資料
④自宅介護に関する記録

①要介護認定の資料

要介護認定に関する資料から、被相続人の身体的・精神的な状態を読み取ることができます。
被相続人の介護の必要性を裏付ける証拠となりますし、介護の負担の程度などを推認させる証拠となるでしょう。

②医師の診断書

医師の診断書も、同様に、被相続人の身体的・精神的な状態が記載されています。
被相続人の介護の必要性、介護の負担の程度などの立証に役立つでしょう。

③介護サービスの利用に関する資料

どのような介護サービスを受けていたのかは、被相続人の介護の必要性、介護の負担の程度などを判断するための考慮要素となります。
また、相続人が介護サービスの費用を負担した場合には、金銭等出資型の寄与分の対象となります。

④自宅介護に関する記録

自宅介護の事実については、客観的な証拠に乏しいことも多いです。
可能であれば、被相続人の生前から、介護の様子を具体的・詳細に記載した介護日誌を付けるようにするのがよいでしょう。

介護による寄与分の金額

介護による寄与分の金額は、介護保険における介護報酬基準に基づく報酬相当額(日額)に介護日数を掛け、さらに家庭裁判所が裁量で判断する裁量割合を掛けて計算するのが通常です。

寄与分の額=報酬相当額(日額)×介護日数×裁量割合

報酬相当額(日額)は、地域などにより異なりますが、おおむね6000円~9000円程度の範囲で計算されます。
また、裁量割合は、報酬相当額(日額)が介護事業者に対する報酬水準であることから、相続人による介護について満額を認めることが不適切な場合もあることを考慮し、用いられる係数です。
裁量割合は、おおむね0.5~0.8程度とされることが多いですが、裁判例の中には、裁量割合を掛けずに報酬相当額(日額)の満額を認めるものも見られます。

なお、仕事を辞めて被相続人の介護をした場合であっても、退職前の年収を基準に寄与分の計算をするという取り扱いは認められません。

特別受益・寄与分についてはこちらもご覧ください

●特別受益と寄与分
●特別受益が問題になる場合と相続分の計算
●特別受益の成立要件と具体例
●寄与分が問題になる場合と相続分の計算
●寄与分の成立要件と具体例
●生命保険と特別受益
●死亡退職金と特別受益
●学費と特別受益
●介護と寄与分
●家業従事と寄与分
●持ち戻し免除の意思表示
●相続分不存在証明書について