被相続人が作成した遺言書について、一部の相続人から遺言無効を主張されることがあります。
例えば、遺言書が「特定の相続人にすべての財産を相続させる」という内容の場合、他の相続人が納得しないということも少なくありません。
そして、「遺言書が作成された当時、被相続人は認知症になっていた」、「遺言書の筆跡が被相続人のものではない」、「遺言書が法律上の要件を満たしていない」などと主張し、遺言無効確認請求訴訟を提起することが考えられます。

遺言無効確認請求訴訟が提起された場合、遺言書が無効であると主張する相続人側は、無効であると考える法的な根拠と証拠資料を裁判所に提出してきます。
これに対し、遺言無効確認請求訴訟を提起された側のあなたは、遺言書が有効であるとする根拠とそれを裏付ける証拠資料を裁判所に提出し、争っていくこととなります。

認知症が問題となる場合

遺言無効確認請求訴訟では、認知症が問題となることがよくあります。
「被相続人は認知症になっており、遺言書を有効に作成できる状態ではなく、そのような状態で作成された遺言書は無効である」というものです。
この点、被相続人が認知症にかかっていたからといって、それだけで直ちに遺言書が無効となるわけではありません。

遺言書を有効に作成するためには、「意思能力」(自身の行為による法的な結果を認識・判断する能力)が必要であるとされています。
そして、遺言を行うにあたっての意思能力は、特に「遺言能力」(遺言書の内容を理解し、自身の死後にどのような結果となるかを認識する能力)とも呼ばれます。
このような意思能力(遺言能力)を欠く場合には、遺言書が無効とされます。

仮に被相続人が認知症になっていたとしても、軽度の認知症であり、遺言書の内容を理解し、自身の死後にどのような結果となるかを認識できていたのであれば、遺言書は有効となります。
遺言書の内容が単純な場合や、遺言者と遺産を受け取る相続人との関係が良好な場合には、中等度の認知症であっても遺言書が有効とされるケースもあります。

認知症による遺言無効が争われる事案では、病院の医療記録、介護サービス事業者の介護記録、市町村役場の要介護認定に関する資料などを取得し、精査する必要があります。
また、意思能力(遺言能力)の有無の判断では、①遺言書作成時における被相続人の認知症の状態、②遺言書作成時における被相続人の年齢、③遺言書作成前後の被相続人の状況、④遺言書作成に至る経緯(動機・理由)、⑤遺言書の内容、⑥相続人・受遺者との関係性など、様々な要素が考慮されます。
そのため、上記のような資料をもとに、有効な法的主張を組み立てる必要があります。

遺言書の自筆・偽造が問題となる場合

遺言書の自筆・偽造は、自筆証書遺言の場合に問題となることがあります。
公正証書遺言の場合には、公証人が被相続人の本人確認を行ったうえで作成するため、偽造が問題となることはまずありません。

自筆証書遺言は、被相続人が「全文、日付および氏名を自書する」ことが要件とされます。
「自書」とは、自ら筆記具(ペン、万年筆、毛筆など)で書くことを言います。
このような自筆証書遺言の「自書」の要件は、遺言が有効であると主張する側が証明する必要があるとされています。
遺言無効確認請求訴訟を提起された側のあなたが、「自書」であることを証明しなければならず、これを証明できなければ、自筆証書遺言は無効とされてしまいます。

自筆証書遺言の「自書」の要件を証明するためには、筆跡鑑定書を提出することは必要不可欠でしょう。
しかし、筆跡鑑定は、公的な資格があるわけではなく、鑑定人の力量に左右されるところも大きいですし、同じ人でもその時々で筆跡が違ったり、加齢や病気等により筆跡が変わったりします。
鑑定結果の信用性に疑問が呈されることもあり、筆跡鑑定のみでは判断の決め手とならないことも多々あります。

そのため、自筆証書遺言の自書・偽造は、遺言書の筆跡と被相続人の筆跡との同一性のほかに、遺言書作成に至る経緯、遺言書の内容、遺言書に押印された印鑑、遺言書発見者の説明内容、被相続人死亡から遺言書発見までの期間、被相続人と遺言書発見者との関係性など、様々な要素を考慮して判断されています。
このような様々な事情を、適切に主張・立証していかなければなりません。

遺言書の形式違反が問題となる場合

遺言無効確認請求訴訟では、遺言書の形式違反が主張されることがあります。
遺言書が要件を満たしていなければ、原則として形式違反により無効となります。

【遺言書の要件についてはこちら】
●遺言に関する基礎知識

公正証書遺言の場合には、法律の専門家である公証人(多くは元裁判官・元検察官)が作成し、作成過程において要件を満たすことを厳重にチェックするため、形式違反は起こりにくいです。
遺言書の形式違反が問題となるのは、実務上、自筆証書遺言の場合に限られます。

遺言書の形式違反が主張された場合には、実際の遺言書が個別の要件に違反するかどうかを検討し、反論していくこととなります。

【自筆証書遺言が無効とされた事例】
①遺言者の手に配偶者が添え手をして書かせたもの(実質的には配偶者が書いたと評価されるため、「自書」の要件を満たさず)。
②遺言書の本文がタイプライターで作成され、自書による署名・押印がなされたもの(タイプライターによる作成は、「自書」とは認められず)。
③日付が「吉日」と書かれたもの(「日付」の記載は年月日まで特定できる必要あり)。

【自筆証書遺言が有効とされた事例】
①カーボン用紙の複写により作成されたもの(筆跡により被相続人が記載したかどうかを判断できるため、「自書」の要件を満たす)。
②日付が「還暦の日」と書かれたもの(年月日まで特定できるため、「日付」の記載として有効)。

弁護士にご相談ください

裁判所から遺言無効確認請求訴訟の訴状が届いた場合には、まずは専門家である弁護士に相談するようにしましょう。
証拠資料の収集や法的主張の構成など、訴訟手続に適切に対応していくためには、弁護士にご依頼いただくことをお勧めいたします。
遺言無効確認請求訴訟を起こされた場合には、お気軽に当事務所にご相談いただければと存じます。

遺言無効事件についてはこちらもご覧下さい

●遺言無効事件について
●遺言に関する基礎知識
●形式違反による遺言無効
●偽造による遺言無効
●認知症による遺言無効
●遺言無効確認請求訴訟を起こされた場合の対応