認知症による遺言無効とは?
遺言者が認知症にかかった状態で遺言書が作成され、遺言者の死亡後に遺言書の効力が争われることがあります。
ひと言に認知症と言っても、症状の内容や程度は様々であり、認知症だからといって、直ちに遺言書が無効となるわけではありません。
認知症の具体的な症状や程度により、「意思能力」(自身の行為による法的な結果を認識・判断する能力)を欠くと判断されれば、遺言が無効とされます。
遺言を行うにあたっての意思能力は、特に「遺言能力」(遺言書の内容を理解し、自身の死後にどのような結果となるかを認識する能力)とも呼ばれます。
意思能力(遺言能力)の有無の判断要素
認知症の人が作成した遺言書の有効性は、意思能力(遺言能力)の有無により判断されることが多いです。
そして、意思能力(遺言能力)の有無は、①遺言書作成時における遺言者の認知症の状態、②遺言書作成時における遺言者の年齢、③遺言書作成前後の遺言者の状況、④遺言書作成に至る経緯(動機・理由)、⑤遺言書の内容、⑥相続人・受遺者との関係性など、様々な要素を考慮して判断されます。
①遺言書作成時における遺言者の認知症の状態
遺言書が作成された当時における遺言者の認知症の状態は、重要な判断要素です。
認知症にかかっているというだけで、直ちに意思能力(遺言能力)が否定されるわけではありません。
具体的に認知症がどの程度進んでいたか、どのような認知機能に障害があったか、などが考慮されます。
②遺言書作成時における遺言者の年齢
一般的に、高齢になるほど認知症を発症しやすく、記憶力や判断力の低下が見られます。
そのため、遺言書が作成された当時における遺言者の年齢は、判断要素の一つとなり得ます。
しかし、当然ながら、高齢(例えば、90歳を超えているなど)であるというだけで、意思能力(遺言能力)が否定されることにはなりません。
③遺言書作成前後の遺言者の状況
例えば、遺言書が作成された前後に入院・退院があれば、その際の遺言者の状況から、意思能力(遺言能力)の有無を判断されることがあります。
④遺言書作成に至る経緯(動機・理由)
遺言書の内容とも照らし、遺言書を作成した動機・理由と整合性・合理性があるかどうかが判断されます。
遺言者が何度も遺言書の内容を大きく変更している場合や、遺言書の内容を変更する合理的な動機・理由が見当たらない場合には、意思能力(遺言能力)を否定的に判断する事情となります。
⑤遺言書の内容
遺言書作成に至る動機・理由に照らし、遺言書の内容が自然・合理的であると言えるかどうかが判断されます。
また、遺言書の内容が単純なものであれば(例えば、「すべての財産を特定の相続人に相続させる」という内容の遺言書など)、遺言者に多少の認知症があったとしても、意思能力(遺言能力)があると判断されやすくなります。
これに対し、遺言書の内容が複雑なものであれば(例えば、遺産が高額で様々な種類のものがあり、複数の相続人に分けて相続させるという内容の遺言書など)、認知症の具体的な症状や程度にもよりますが、意思能力(遺言能力)を欠くと判断されやすくなります。
⑥相続人・受遺者との関係性
遺言者と親密な交流があった相続人・受遺者であれば、多額の遺産を取得させるという内容の遺言書が作成されたとしても、不自然・不合理とは言えないため、意思能力(遺言能力)ありと判断されやすくなります。
これに対し、交流が薄く、あるいは関係の悪い相続人・受遺者に多額の遺産を取得させるという内容の遺言書であれば、そのような遺言書を作成する動機・理由に乏しいとして、意思能力(遺言能力)なしと判断されやすくなります。
認知症に関する証拠資料
認知症による遺言無効が問題となる事案では、遺言者の認知症の状態を裏付けるための客観的な証拠資料を可能な限り収集することが重要です。
医療記録、介護記録、要介護認定に関する資料は特に重要となりますので、以下で整理させていただきます。
医療記録
医療機関からは、医療記録として、以下のような資料を取得します。
□診療録(カルテ)
□看護記録
□XP、CT、MRIの画像
□知能テストの結果(長谷川式認知症評価スケールなど) など
介護記録
介護サービス事業者からは、介護記録として、以下のような資料を取得します。
□課題分析(アセスメント)
□介護サービス計画(ケアプラン)
□介護記録(ケース記録) など
要介護認定に関する資料
市町村役場からは、要介護認定に関する資料として、以下のような資料の開示を取得します。
□主治医意見書
□要介護認定調査票
□要介護認定結果通知書 など
遺言無効事件についてはこちらもご覧下さい
●遺言無効事件について
●遺言に関する基礎知識
●形式違反による遺言無効
●偽造による遺言無効
●認知症による遺言無効
●遺言無効確認請求訴訟を起こされた場合の対応