偽造による遺言無効とは?

遺言書が偽造された場合には、遺言は無効となります。
偽造とは、遺言者以外の者が遺言者名義で遺言書を作成することを言います。

この点、公正証書遺言の場合には、公証人が遺言者の本人確認を行ったうえで作成するため、偽造が発生することはまずありません。
そのため、遺言書の偽造が問題となるのは、実務上、自筆証書遺言の場合に限られます。
自筆証書遺言の場合には、公証人による本人確認や証人の立ち合いなどが行われず、認印でも作成できてしまうため、偽造されてしまうことがあり得るのです。

「自書」の要件と偽造

自筆証書遺言の要件として、遺言者が「全文、日付および氏名を自書する」というものがあります。

【遺言書の要件についてはこちら】
●遺言に関する基礎知識

自筆証書遺言が偽造された場合、このような「自書」の要件を欠くこととなるため、遺言は無効となります。

なお、刑事上の文書偽造罪における「偽造」とは、文書の名義人の意思に反して文書を作成することを意味し、文書の名義人の同意を得て代筆された場合には、偽造にはあたらないものとされます。
しかし、自筆証書遺言の場合には、たとえ遺言者の同意を得て代筆された場合であっても、「自書」の要件を満たさず、遺言は無効とされます。

自筆証書遺言の「自書」の要件は、遺言が有効であることを主張する側が証明する必要があります。
そのため、遺言無効確認請求訴訟が提起され、原告(訴えた側)が自筆証書遺言の偽造を主張する場合、被告(訴えられた側)が「自書」であることを証明しなければなりません。
原告において自筆証書遺言の偽造を証明できない場合であっても、被告が「自書」であることを証明できなければ、自筆証書遺言は無効となるのです。

自書・偽造の判断要素

自筆証書遺言の自書・偽造については、遺言書の筆跡と遺言者の筆跡との同一性のほかに、遺言書作成に至る経緯、遺言書の内容、遺言書に押印された印鑑、遺言書発見者の説明内容、遺言者死亡から遺言書発見までの期間、遺言者と遺言書発見者との関係性など、様々な要素を考慮して判断されます。

この点、偽造による遺言無効が争われる事案では、筆跡鑑定が利用されることも多いです。
確かに、筆跡の同一性の検討は重要な要素ではありますが、鑑定結果の信用性に疑問が呈されることもあり、筆跡鑑定どおりの判決とならないことも少なくありません。

筆跡鑑定は、公的な資格がなく、鑑定人の資質に左右されるところも大きいですし、同じ人でもその時々で筆跡が異なったり、加齢や病気等により筆跡が変化したりします。
原告側と被告側がそれぞれ別の業者に筆跡鑑定を依頼し、結論の異なる鑑定結果が提出されることもよくあり、筆跡鑑定のみでは判断の決め手とならないことも多いのです。
ですので、上記のとおり、様々な要素を考慮して判断されることとなります。

遺言書の偽造と相続欠格

上記のように、遺言無効確認請求訴訟では、被告が「自書」であることを証明できなければ遺言は無効となるのであり、原告において自筆証書遺言の偽造を証明できない場合でも勝訴することが可能です。
しかし、原告において自筆証書遺言が偽造されたことまで証明できれば、遺言が無効となることに加えて、偽造をした相続人を相続欠格により遺産分割協議から除外することができます。
ただし、相続欠格となった者に子がいる場合には、代襲相続が発生します。
このように代襲相続が発生する場合には、他の相続人の相続分が増えるわけではありません。

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●遺言に関する基礎知識
●形式違反による遺言無効
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●認知症による遺言無効
●遺言無効確認請求訴訟を起こされた場合の対応