「遺言書が作成された当時、被相続人が認知症にかかっており、遺言をするための判断能力がなかったはずである」
「遺言書が被相続人以外の者によって偽造されたものである」
「遺言書の形式的な要件を満たしておらず、効力がないと考えている」

このように、遺言の有効・無効が争われる事案のことを、遺言無効事件と言います。
遺言書は、作成当時において被相続人が高齢であることも多く、遺言無効事件は数多く発生しています。
以下では、遺言無効事件の解決までの流れについて、ご説明させていただきます。

遺言無効事件の手続の流れ

遺言無効事件の手続は、①遺言書の有効性の調査、②遺言無効確認請求の調停・訴訟、③遺産分割の協議・調停・審判、④遺留分侵害額請求の協議・調停・訴訟の流れとなります。

①遺言書の有効性の調査

遺言書の有効性を判断するためには、客観的な資料を収集・精査する必要があります。
客観的な資料としては、遺言書や手持ちの資料のほかに、認知症等が問題となる場合には、病院の診療録(カルテ)や施設の介護記録などを取り寄せ、分析しなければなりません。
このような遺言書の有効性の調査を踏まえて、遺言が無効であることを主張するかどうかを判断することとなります。

②遺言無効確認請求の調停・訴訟

遺言書の有効性の調査の結果、遺言の無効を主張する場合には、裁判所に遺言無効確認請求の調停・訴訟を起こすこととなります。
遺言無効確認請求の調停は、家庭裁判所の手続であり、遺言が無効であることについて、調停委員を仲介者とする話し合いをし、解決を図るものです。
遺言無効確認請求の訴訟は、地方裁判所の手続であり、遺言が無効であることを裁判所に確認してもらうための手続です。

遺言の無効については、当事者同士の話し合いで解決するのは困難なのが通常ですから、裁判所の手続により解決を図ることになるのが通常です。
そして、家事事件手続法によると、訴訟を提起する場合には、先行して調停を申し立てるのが原則であるとされています。
そうすると、まずは遺言無効確認請求の調停を申し立て、調停での話し合いがまとまらなかった場合には、遺言無効確認請求の訴訟を提起するというのが、原則的な手続の流れとなりそうです。
しかし、実際には、遺言無効について調停委員を交えて話し合ったところで、折り合いが付けられないことがほとんどでしょう。
そこで、遺言無効確認請求の訴訟については、実務上、調停を挟まずに最初から訴訟を提起していくことが一般的に行われています。

遺言無効確認請求の訴訟では、遺言の無効を主張する側が、遺言が無効であることを立証しなければなりません。
また、すでに遺言書に従って預金の払戻や不動産の相続登記が行われている場合には、預金の返還や相続登記の抹消を求める訴訟も同時に提起することとなります。
そして、相続人が遺言書を偽造した場合には、その相続人は相続欠格となります(民法891条5号)。
そのため、遺言書の偽造を理由に遺言無効確認請求の訴訟を提起する場合には、相続権不存在確認請求の訴訟を同時に提起することとなります。

③遺産分割の協議・調停・審判

遺言無効確認請求の訴訟により遺言が無効とされた場合には、遺言書がなかったことになり、遺産分割がまだ済んでいないという状態になります。
そのため、相続人間で遺産分割の協議(話し合い)を行うこととなります。
相続人全員が遺産の分配方法について合意できれば、遺産分割協議が成立し、被相続人の遺産をめぐる紛争は解決となります。

この点、遺言無効確認請求の訴訟が先行している場合には、相続人同士の対立が激しく、任意の話し合いが困難なことも少なくありません。
その場合には、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立て、解決を図ることとなります。
遺産分割の調停では、調停委員が仲介者となり、遺産の分配方法を決めるための話し合いが行われます。
相続人全員が調停で合意できれば遺産相続の問題は解決となりますが、調停での話し合いがまとまらない場合には遺産分割の審判の手続に移行します。
遺産分割の審判では、各相続人の主張内容と証拠資料を踏まえて、裁判所が遺産の分配方法を決定します。
審判の内容に納得できなければ「即時抗告」という不服申立ての手続がありますが、審判が確定すれば遺産分割の問題は解決となります。

④遺留分侵害額請求の協議・調停・訴訟

遺言書の有効性の調査の結果、遺言の無効を主張することが困難である場合や、遺言無効確認請求の訴訟の結果、遺言が無効とされなかった場合には、遺言書が有効であることを前提に、遺留分の侵害の有無を検討することとなります。

遺留分とは、一定範囲の相続人に対し、被相続人の財産のうち、一定の割合を最低限引き継ぐことを保障する制度のことを言います。
そして、遺留分侵害額請求とは、遺言によって侵害された(確保されなくなった)遺留分について、侵害額に相当する金銭を請求することを言います。
遺留分侵害額請求の問題は、当事者間の協議(話し合い)や家庭裁判所での調停で解決を図ることとなり、調停でも合意に至らない場合には、地方裁判所に訴訟を提起して解決を求めることとなります。
遺言無効確認請求の訴訟が先行している場合には、当事者間の対立が激しく、協議ではなく調停または訴訟による解決が適していることも多いでしょう。

ここで、遺留分侵害額請求は、相続の開始(被相続人の死亡)および遺留分の侵害を知ったときから1年間行使しないときには、時効により消滅するなどの期限があるため、注意が必要です。
遺言による遺留分の侵害がある場合には、遺言が有効とされた場合に備えて、遺留分侵害額請求をする旨の意思表示(内容証明郵便の送付)をしておく必要があるでしょう。
また、場合によっては、遺言無効確認請求の訴訟と同時に、遺留分侵害額請求の訴訟を提起するという対応をとることもあります。

弁護士にご相談ください

遺言無効事件を解決するための手続は、法律の専門家でない方にとっては、非常に複雑なものであり、弁護士のサポートなしでは対応が困難です。
弁護士であれば、遺言書の有効性の調査から遺言無効確認請求の訴訟まですべての手続の代理が可能であり、その後の遺産分割や遺留分侵害額請求等の手続も合わせてサポートすることができます。
遺言の有効・無効についてお困りの方がいらっしゃいましたら、まずは相続問題に詳しい当事務所の弁護士にご相談いただければと存じます。

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●遺言に関する基礎知識
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