特定の相続人が、被相続人から生前贈与を受けた財産や、遺贈を受けた財産のことを特別受益といいます。
特別受益は、相続財産の前渡しという性格があります。
そのため、他の相続人との公平を図るため、原則として、特別受益を受けた相続人の相続分を特別受益の分だけ減らす、という方法で調整がなされます。
このことを特別受益の持ち戻しといいます。

もっとも、被相続人が特別受益の持ち戻しをしなくてよいという意向を示していた場合には、遺留分の規定に反しない限り、持ち戻しをしなくてよいことになります。
このことを持ち戻し免除の意思表示といいます。

被相続人が持ち戻し免除の意思表示をするにあたっては、そのやり方に制限はありません。
生前にすることができるほか、遺言によってすることもできます。

また、持ち戻し免除の意思表示の方法は、書面に残しておくなど明確に誰かにわかる方法で行う必要は必ずしもありません。
あらゆる事情を総合的に判断した結果、被相続人が持ち戻し免除の意思表示をしていたと認められる場合もあります。
もっとも、実際には、被相続人が持ち戻し免除の意思表示を明確にしていることはほとんどありません。
そのため、主に以下のような事情を総合的に考慮して、被相続人が持ち戻し免除の意思表示をしていたかどうかが判断されることになります。

●贈与の内容及び価額
●贈与された動機
●被相続人と受贈者および他の相続人との関係
●被相続人と受贈者の経済状態・健康状態
●他の相続人が受けた贈与の内容と価額、およびこれに対する持ち戻し免除の意思表示の有無

また、以下のような事情があった場合には、持ち戻し免除の意思表示が認められやすいと言えます。
●生前贈与をした代わりに、被相続人も見返りに利益を受けている場合
●相続人全員に対して贈与や遺贈をしている場合
●家業を承継させるために、相続分以上の財産を相続させる必要がある場合
●自立して生活することが困難な相続人に対して、生活の保障のために贈与がされている場合

なお、2020年4月から施行の改正民法では、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物または敷地について遺贈または贈与をしたときは、持ち戻し免除の意思表示があったものと推定される、という規定が設けられました。
そのため、この規定が適用された場合には、配偶者が他の相続人よりも手厚い生活の保障を受けやすくなりました。

特別受益・寄与分についてはこちらもご覧ください

●特別受益と寄与分
●特別受益が問題になる場合と相続分の計算
●特別受益の成立要件と具体例
●寄与分が問題になる場合と相続分の計算
●寄与分の成立要件と具体例
●生命保険と特別受益
●死亡退職金と特別受益
●学費と特別受益
●介護と寄与分
●家業従事と寄与分
●持ち戻し免除の意思表示
●相続分不存在証明書について