はじめに

被相続人が亡くなったとき、その配偶者が、被相続人の所有する建物に居住しているというケースは珍しくありません。
しかし、被相続人の死亡に伴って遺産分割が行われることで、配偶者であっても、そのまま居住し続けることができなくなる可能性があります。
このようなことを避けるために、配偶者には、配偶者居住権と配偶者短期居住権という制度が認められています。

配偶者居住権とは

配偶者居住権とは、配偶者が、相続開始時(被相続人の死亡時)に被相続人の所有する建物(居住建物)に居住している場合において、一定の要件を満たすときは、配偶者が生きている間、居住建物の全部分を無償で使用収益することができる権利を指します。
ここでいう一定の要件というのは、①遺産分割の結果、配偶者が配偶者居住権を取得するものとされた場合、②遺言書により、配偶者が配偶者居住権を取得するものとされた場合、③家庭裁判所の審判により、配偶者が配偶者居住権を取得するものとされた場合のいずれかを指します。
また、居住建物を所有した者は、配偶者に対して配偶者居住権の設定に関する登記を備えさせる義務を負うため、居住建物を所有した者が第三者に居住建物を売却したとしても、配偶者は登記さえしていれば、第三者に対しても配偶者居住権を主張することができます。

このように配偶者居住権は、要件を満たせば、配偶者が終身無償で、居住建物に住み続けたり、賃貸など居住建物を用いて利益を上げたりすることができるため、配偶者はこれまでと同じ環境で生活することができる上、預貯金などの他の財産についても法定相続人として取得できるため、配偶者の生活の安定を図ることができます。

もっとも、被相続人が相続開始時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合には、配偶者居住権は認められません。
また、配偶者居住権は、配偶者の生活の安定を図るための権利であるため、第三者へ譲渡することはできません。

なお、配偶者居住権の存続期間は、原則として終身の間となりますが、遺産分割協議や遺言書の内容により、例えば、「被相続人が亡くなってから10年間に限り配偶者居住権を認める」というように、一定の期限に制限することも可能です。
もっとも、このように、一度、期間を定めた場合には、期間の延長や更新を求めることはできないため、注意が必要です。

配偶者短期居住権とは

配偶者短期居住権とは、配偶者が、相続開始時に被相続人の居住建物に無償で居住していた場合には、一定の期間については、そのまま引き続き居住建物を無償で使用することができる権利を指します。
一定の期間というのは、①配偶者が、居住建物の遺産分割に関与する場合には、居住不動産の取得者が決まった日、または、相続が開始した日から6か月間経過した日のいずれかの遅い日を指します。
あるいは、②(配偶者が相続放棄した場合や、居住建物が第三者に遺贈される場合などにより)配偶者が居住建物の遺産分割に関与せず、第三者が居住建物を取得した場合には、その者から配偶者短期居住権の消滅の申し入れを受けた日から6か月間経過した日を指します。

このように、配偶者短期居住権は、配偶者居住権と異なり、要件さえ満たしていれば、何らの手続きを行うことなく、配偶者は、最低でも6か月間、居住建物を無償で使用することができる権利となります。

もっとも、配偶者短期居住権は、配偶者居住権と同様に、第三者へ譲渡することはできません。
他方で、配偶者短期居住権は、配偶者居住権と異なり、居住建物に住み続ける権利でしかないため、賃貸など居住建物を用いて利益を上げるためには、居住建物を取得した者の承諾が必要になります。
また、配偶者が、居住建物の一部しか使用していなかった場合には、使用していた部分にのみ配偶者短期居住権が認められることになります。
なお、配偶者が、相続欠格に該当する場合や廃除により相続権を失った場合には、そもそも配偶者短期居住権が認められません。

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