はじめに

預金の使い込みが問題となるきっかけとしては、遺産としての預金が妙に少ないというケースや、生前から使い込みについて疑惑の目を向けられていたというケースなどが考えられます。
使い込まれた預金の返還請求を行うためには、事前に預金の使い込みを裏付ける証拠を確保するための調査が必要となります。

金融機関に対する残高証明書・取引履歴の交付・開示請求

まずは、金融機関に対して残高証明書・取引履歴の交付・開示を請求します。
預金を使い込んだ者は、被相続人名義の口座の存在を隠している可能性もあります。
そこで、地域の主要な金融機関やゆうちょ銀行に対し、その金融機関の全支店を対象とする名寄せを依頼し、残高証明書の交付を受ける手続を行います。
そのうえで、存在が判明した被相続人名義の預金口座について、取引履歴(預金の預入・払戻等の年月日・金額の履歴が記載された一覧表)の開示を、その金融機関に対して請求する手続を行います。

このような金融機関に対する残高証明書・取引履歴の交付・開示請求は、法定相続人であれば誰でも単独で行うことができるのが原則です。

問題となる預金の払戻のチェック

金融機関の取引履歴が開示されたら、すぐに、問題となる預金の払戻がないかどうかをチェックします。
高額な預金の払戻が不自然に行われている箇所があれば、返還請求の候補となるでしょう。
被相続人の置かれた状況、日常の生活費の水準、財産管理能力などを踏まえて、本人の意思による払戻なのか、本人の意思に反して使い込まれたものなのかを検討していくこととなります。

被相続人の医療記録・介護記録などの取り寄せ

預金の使い込みが問題となる典型的なパターンは、被相続人が病気で病院に入院していたり、認知症で施設に入所していたりする状況で、高額な預金の払戻が行われているという事案です。
被相続人の認知能力に関する資料として、介護認定に関する記録、かかっている病院のカルテ・看護記録、入所していた施設の介護記録などを取り寄せることが必要となるでしょう。
これらの資料については、法定相続人であれば誰でも単独で取り寄せられるものもあれば、弁護士からの交付要求でなければ開示を受けられないケースもあります。

被相続人が病院に入院あるいは施設に入所しており、本人が財産を自身で管理する能力がなく、日常の生活費としては病院・施設にかかる費用および諸雑費程度であるのに、それに見合わない高額の預金の払戻が行われていたという場合には、預金の使い込みの可能性が高いと言えるでしょう。

払戻請求書・定期預金解約申込書の写しの交付請求

問題となる預金の払戻について、金融機関に対して払戻請求書・定期預金解約申込書の写しを交付するように請求します。
このような金融機関に対する払戻請求書・定期預金解約申込書の写しの交付請求は、法定相続人であれば誰でも単独で行うことができるのが原則です。
ただし、金融機関によっては、「弁護士からの交付請求であれば応じる」という対応を取られることもあります。

そして、払戻請求書・定期預金解約申込書の筆跡と、被相続人の筆跡とが異なるようであれば、被相続人ではなく、他者が払戻を行ったことが裏付けられます。
被相続人が生前に書いた手紙などの筆跡や、預金の使い込みを行ったと疑われる者の筆跡と照らし合わせることで、誰が払戻を行ったのかを明らかにしていくのが基本です。
ケースによっては、筆跡鑑定が必要となるケースもあります。

弁護士にご相談ください

以上のように、使い込まれた預金の返還請求を行うに当たっては、様々な調査を行う必要があります。
ご不明のことがあれば、専門家である弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
また、弁護士にご依頼いただくことで、返還請求に向けた様々な調査も含めて、手続を一任することが可能です。
預金の使い込みの事案については、調査から示談交渉、訴訟を経て回収に至るまで、多くの困難が想定されますので、弁護士へのご相談・ご依頼をご検討されることをお勧めいたします。

預金の使い込みについてはこちらもご覧下さい

●預金の使い込みについて(被相続人の生前の使い込み)
●預金を使い込んだとして請求を受けた方へ(被相続人の生前の使い込み)
●使い込まれた預金の返還を請求したい方へ(被相続人の生前の使い込み)
●使い込まれた預金の返還請求のために必要な調査(被相続人の生前の使い込み)
●預金の使い込み問題における主な争点(被相続人の生前の使い込み)
●被相続人の死亡後の預金払戻について