被相続人の遺産の分配をめぐり、他の相続人から遺産分割の提示を受けることがあります。
このように他の相続人から提示された遺産分割案に納得できない方はいらっしゃいませんか?
このページでは、他の相続人からの遺産分割の提示に納得できない場合の対処法などをご説明させていただきます。

1 遺産分割の提示に納得できない主な原因

他の相続人から遺産分割の提示を受けた際に、その提示に納得できない主な原因としては、①不公平な遺産分割案であること、②特別受益・寄与分の問題があること、③遺産の評価について疑義があること、などがあります。

(1)不公平な遺産分割案である

他の相続人から示された遺産分割案が不公平なものであれば、納得できないのは当然のことでしょう。

年長者や家を継ぐ相続人が遺産の多くを取得しようとして、その他の相続人に少しの遺産しか分配しないような遺産分割案を提示し、トラブルになる例も少なくありません。

このような偏った内容の遺産分割案には、応じる必要はまったくありません。

(2)特別受益・寄与分の問題がある

遺産分割では、特別受益・寄与分が問題となることがあります。

特別受益とは、被相続人から生前贈与などの特別の利益を受けた場合に、受けた利益の分だけ相続分を減らす制度です。
また、寄与分とは、家業従事・介護などの特別の寄与により被相続人の財産の形成・維持に貢献した場合に、その貢献を考慮して相続分を増やす制度です。

不当・過大な特別受益・寄与分を主張されたり、しかるべき特別受益・寄与分が考慮されなかったりすれば、遺産分割の提示に納得できないのは仕方のないことです。

このような場合にも、提示された遺産分割案に合意する必要はありません。

(3)遺産の評価について疑義がある

不動産・株式などの遺産の評価について、相続人間で意見が対立することがあります。

遺産分割では、相続人の1人が不動産・株式などを取得する代わりに、他の相続人に対して代償金を支払ったり、他の相続人が預貯金をその分多く取得したりすることにより公平を図る、ということがよく行われます。

その際に、例えば、不動産・株式などの評価額を低く見積もれば、他の相続人に対して支払う代償金(あるいは他の相続人が取得する預貯金)の額が減り、不動産・株式などを取得する相続人が有利になります。

このように、遺産の評価いかんにより相続人間の利害が対立するため、不当な遺産評価を主張する相続人がいれば、遺産分割でもめる原因となります。
他の相続人から不当な遺産評価に基づく遺産分割案を提示された場合にも、合意する必要はありません。

2 遺産分割の提示に納得できない場合の対処法

他の相続人から提示された遺産分割案に納得できない場合には、次のような対処法をとるとよいでしょう。

(1)遺産分割協議書に署名・押印しないようにする

他の相続人から遺産分割協議書を提示され、署名・押印を求められることがあります。
そして、遺産分割協議書に相続人全員が署名・押印すれば、それで遺産分割協議が成立します。
このように遺産分割協議が一旦成立すれば、もはや取り消すことはできないのが原則ですので、注意が必要です。

この点、遺産分割協議書に重大な財産の漏れがあり、「その財産の存在が分かっていれば、遺産分割に合意しなかったであろう」と認められる場合などには、錯誤(民法95条)により取消しを主張することができます。
また、遺産分割の合意に至る過程で騙されたり(詐欺)、脅迫(強迫)されたりした場合や(民法96条)、相続人全員が遺産分割協議のやり直しに合意した場合には、遺産分割協議を取り消すことができます。

しかし、このように取消しができるのはあくまで例外的な場合であり、錯誤や詐欺・強迫の事実は遺産分割協議の取消しを主張する人が証拠により証明しなければなりません。
遺産分割協議書に一旦署名・押印してしまうと、後々取り消すことは非常に困難な状態となってしまうのが通常です。
ですので、遺産分割協議書の内容に納得できないのであれば、署名・押印してはいけません。

(2)法定相続分による公平な遺産分割案を主張する

法定相続分とは異なる不公平な遺産分割案を提示された場合には、法定相続分どおりの遺産分割を主張するようにしましょう。
法律により定められた相続人・相続分のことを、法定相続人・法定相続分と言います。
具体的な法定相続分は、以下のとおりです。

法定相続人 法定相続分
配偶者のみ 配偶者=100%
配偶者と子 配偶者=2分の1 子=2分の1
配偶者と直系尊属 配偶者=3分の2 直系尊属=3分の1
配偶者と兄弟姉妹 配偶者=4分の3 兄弟姉妹=4分の1
子のみ 子=100%
直系尊属のみ 直系尊属=100%
兄弟姉妹のみ 兄弟姉妹=100%

子・直系尊属・兄弟姉妹が複数人いる場合は、均等に分配されます。
例えば、法定相続人が配偶者および子3人の場合には、法定相続分は配偶者が2分の1、子3人は6分の1ずつとなります。

年長者や家を継ぐ相続人が遺産の大部分を取得しようとしている場合には、納得できないのであれば遺産分割に同意せず、法定相続分を主張するようにしましょう。

(3)特別受益・寄与分について検討する

他の相続人が被相続人から生前贈与などの特別の利益を受けた場合には、特別受益を考慮した公平な遺産分割を行うように主張しましょう。

例えば、法定相続人が兄と弟の2人であり、遺産総額が3000万円であるとします。
兄が被相続人の生前に1000万円の特別受益を受けている場合、これを遺産総額に加算した4000万円(3000万円+1000万円)を分配する計算をするのが公平です。
これによると、兄が2000万円(4000万円×2分の1)を取得し、弟が2000万円(同)を取得する計算となります。
そして、兄は生前に1000万円の特別受益を受けているため、実際に相続できるのは1000万円となります。

このように、公平な結論が得られる遺産分割案を提示し、交渉するようにしましょう。

また、家業従事・介護などの特別の寄与により被相続人の財産の形成・維持に貢献した場合には、法定相続分よりも多く遺産を貰えるように交渉していくこととなるでしょう。

他方で、他の相続人が過大な寄与分を主張し、遺産の大部分を取得しようとする例もよく見られます。
しかし、家業従事・介護の寄与分が認められるためには、相当の負担を伴う貢献であることなどの要件を満たす必要があり、そう簡単に認められるものではありません。
また、遺産の大部分を独り占めできるほどの寄与分が認められることはほとんどありませんので、遺産分割案に納得できなければ公平な分配を主張していくべきでしょう。

(4)遺産の適正な評価を検討する

遺産の価格の評価方法には、様々なものがあります。

よく問題となるのは、不動産の評価です。
この点、不動産の評価額の指標として、次のようなものがあります。

【①公示価格】
国土交通省の土地鑑定委員会が、毎年1回、1月1日を基準日として、特定の土地(標準地)の正常な価格を公表するものです。
【②相続税評価額(路線価)】
相続税や贈与税の算出のために使用される宅地の価値評価額です。
市街地については路線価(その土地が接している道路の価値)を基準に、その他の土地は倍率方式(固定資産評価額×評価倍率)によって算定されます。
【③固定資産評価額】
固定資産税の算出のために使用される不動産の評価額であり、市町村が定めます。

実際上は、青森県に所在する不動産について言えば、固定資産評価額を用いる例も多いように見受けられます。
また、【④不動産業者の査定】を参考とすることもあります。
遺産分割の調停・審判では、相続人同士で評価方法をめぐり争いになった場合には、【⑤家庭裁判所の鑑定の手続】により、不動産の評価額が判断されることもあります。

その他、株式、貴金属・宝飾品、骨とう品、美術品などの評価が問題となることもあります。

遺産の評価が不当なものであれば、遺産分割の内容も不公平なものとなります。
そのため、遺産の評価について疑義がある場合には、適正な評価を検討・主張していく必要があるでしょう。

(5)弁護士を通じて遺産分割を行う

他の相続人から提示された遺産分割案に疑問がある場合には、まずは専門家である弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
相続問題に詳しい弁護士であれば、他の相続人の主張・要求が正当なものであるかどうかを的確に判断し、適切な対処・反論の方法を組み立てることができます。

また、不公平な内容の遺産分割案を提示してくる相続人は、自己主張が強い人物であることも多く、対応に苦慮する例がよく見られます。
交渉のプロである弁護士に対応をご依頼いただけば、他の相続人との交渉窓口を弁護士に一任することができますので、直接交渉をするストレスや不安を感じることもなく、法律に基づく適正な解決を図ることが期待できます。

また、後述するように、遺産分割の話し合い(協議)がまとまらなければ、家庭裁判所の調停・審判の手続により解決を求めることとなります。
家庭裁判所の手続は複雑なものであり、適切な主張・立証の活動を展開しなければ適正な結果を得ることが難しいため、法的手続のプロである弁護士にご依頼いただくことが不可欠であると考えられます。

3 遺産分割の流れ

遺産分割の手続は、①遺産分割協議、②遺産分割調停、③遺産分割審判の3段階の流れで進めていくこととなります。

(1)遺産分割協議

遺産分割は、まずは相続人同士の話し合い(協議)により解決を目指すのが通常です。
相続人全員が遺産分割協議書に署名・押印すれば、遺産分割が成立・解決となります。

前述のとおり、不公平な遺産分割案を通そうとする相続人との直接交渉には、大きなストレスや不安を感じることと存じます。
専門家である弁護士にご相談・ご依頼いただくこともご検討いただくとよいでしょう。

(2)遺産分割調停

遺産分割協議がまとまらなければ、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることとなります。
遺産分割協議は、家庭裁判所において、中立の調停委員のあっ旋のもとに、合意形成に向けた話し合いが行われます。

調停委員を仲介者とする交渉も容易なものではなく、適正な結果を得るためには適切な主張・立証の活動を展開する必要があるため、法的手続のプロである弁護士を活用いただくことをお勧めいたします。

(3)遺産分割審判

遺産分割調停でも合意に至らなかった場合には、家庭裁判所の審判の手続に移行し、裁判官が具体的な遺産分割の内容を決めます。

裁判官は、各相続人の主張と証拠資料をもとに遺産分割の内容を判断します。
納得できる結果を得るためには、十分な主張・立証の活動を展開しなければなりませんので、遺産分割調停と同じく、専門家である弁護士のサポートのもとに対応するようにしましょう。

4 弁護士にご相談ください

他の相続人からの遺産分割の提示に納得できない方がいらっしゃいましたら、まずは遺産分割に詳しい弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

当事務所では、他の相続人からの不公平な遺産分割案に対し、法定相続分による公平な遺産分割を勝ち取った事例など、解決実績が豊富にございます。
遺産分割を得意とする当事務所の弁護士に、お気軽にご相談いただければと存じます。