1 背景

90代の男性(お客様)から、亡くなった妻(被相続人)の相続財産を取得したい、というご相談をいただきました。
相続財産の中には、お客様が居住している不動産の他、多額の預貯金がありました。
お客様によると、被相続人は40代の頃から統合失調症に罹患し、70代になった頃からは、施設には入居させずに毎日付きっきりで世話をしていたため、これを考慮して遺産分割を行いたい、とのご意向でした。
しかし、このような意向をもとに他の相続人(被相続人の兄弟)と協議を試みたものの、他の相続人からの回答がないために協議が進まない、とのことでした。
このようなことから、ご自身で遺産分割を進めることが困難であると判断し、被相続人の遺産分割について、当事務所にご依頼いただくことになりました。

2 当事務所の活動と結果

まず、当事務所の弁護士は、相続人及び相続財産を調査した上で、すぐさま遺産分割調停を申し立てました。
そして、遺産分割調停では、お客様のこれまでの行動からすると多額の寄与分が認められるため、これを勘案した遺産分割を希望する旨を主張しました。
しかし、相手方はこれに対し、お客様には寄与分が認められるようなことはしておらず、それどころかこれまで相続人の財産を流出させてきた旨を主張し、法定相続分でなければ遺産分割に応じない姿勢を崩しませんでした。
そのため、当事務所の弁護士は、お客様がこれまでどれほど被相続人に尽くしてきたかについて証明するために、被相続人が入通院した医療機関からカルテ等の医療記録を取り寄せました。
そして、被相続人の症状や言動を説明し、これに対して夫であるお客様がどのような苦労をしてきたのかについて、医療記録をもとに丁寧に主張していきました。
このような活動の結果、調停に参加した裁判官が、当事務所の弁護士が主張した被相続人の寄与分を全面的に認める心証を示し、これを前提とした遺産分割調停を成立させることができました。
これにより、お客様は1600万円余りの遺産を取得することができました。

3 所感

寄与分は、相続人が被相続人の財産の形成や維持をした場合に法定相続分以上に財産を取得させる制度のことを指します。
もっとも、本件のように、病気の家族の面倒を見たことで施設費用等の支出を免れたという主張(いわゆる療養看護型の寄与分の主張)をしても、相続人の行動は親族間の協力扶助の範囲を越えるものではないため特別の寄与があったとは認められない、と反論されることが多いです。
そのため、療養看護型の寄与分を主張するためには、医療記録から被相続人の症状や程度を説明するとともに、これに対して、通常親族に期待される範囲を越えた活動をしていたことを証明していく必要があります。
このような対応には、かなりの労力を要することになるのが通常です。

本件は、医療記録から被相続人の症状や言動を丁寧に説明し、お客様が被相続人に何年間も付きっきりで療養・看護をしなければならなかった、という事情を上手く証明することができたことから、お客様が満足する形で解決することができたと考えられます。