被相続人(親)が相続人(子)の学費を負担・援助した場合、学費が特別受益になるのか?という問題があります。
これは、相続人間で受けた教育内容に差がある場合に問題となりやすいです。

問題となる学費

高等学校までの学費、大学の学費、大学院の学費・海外留学の費用に分けてご説明させていただきます。

高等学校までの学費

現在では、高等学校進学率が9割を超えています。
高等学校までの費用は、特別受益にならないのが通常です。

大学の学費

高等学校卒業後の学費が特別受益になるかどうかは、被相続人の資力、社会的地位、学歴、学費の金額、各相続人が受けた教育内容などの事情を考慮して判断されます。
相続人間で著しく格差が大きければ特別受益となり、そうでなければ特別受益とならないでしょう。

この点、他の相続人らが親の家業を手伝う一方で、一人だけ家業の手伝いをせず、4年制の私立大学に通わせてもらったという事案で特別受益を認めた裁判例があります(京都家庭裁判所平成2年5月1日審判)。
一方で、子らのうち長男だけが医学部の大学を卒業させてもらった事案で、親が開業医であり長男による家業の承継を希望していたこと、他の子らも大学教育を受けたこと、親の資力や家庭環境などを考慮し、特別受益を認めなかった裁判例があります(京都地方裁判所平成10年9月11日判決)。

大学院の学費・海外留学の費用

大学院の費用・海外留学の費用についても、同様に、被相続人の資力、社会的地位、学歴、学費の金額、各相続人が受けた教育内容などの事情を考慮して、特別受益になるかどうかが判断されます。

この点、子らのうち一人だけが2年間の大学院やその後の10年間の海外留学の学費の援助を受けた事案で、被相続人が経済的に余裕があったこと、被相続人一家の教育水準が高かったこと、援助を受けた学費のうち相当額が返還されたこと、他の子らも大学に進学し、在学期間中に短期留学したことなどを考慮し、特別受益を認めなかった裁判例があります(名古屋高等裁判所令和元年5月17日決定)。

持ち戻し免除の意思表示

仮に学費が特別受益に当たる場合でも、持ち戻し免除の意思表示があったと認められることも少なくないと考えられます。