1 背景

60代の女性(お客様)から、お客様のお母様(被相続人)の遺言についてのご相談をいただきました。
被相続人の法定相続人は、お客様を含む子3名でした。

お客様は被相続人と同居し、被相続人名義の家の住宅ローンや各種支払いを負担しながら、被相続人と生活してきました。
そのようなお客様に対し、被相続人は、お客様に財産のすべてを相続させる旨の遺言書を作成していました。
しかし、被相続人は、理由は不明ですが、ある時新たに、お客様の姉(相手方)にすべての財産を相続させる旨の遺言書を作成し、お客様には引越しをさせ、家を処分し、そのまま亡くなってしまいました。

2 当事務所の活動と成果

当事務所の弁護士は、相手方に対し、遺留分侵害額請求を行うこととしました。
その際、お客様のもう一人のお姉様からも遺留分侵害額請求をご依頼いただくこととなったのですが、ここで一点問題がありました。
この方は、最初の遺言書が作成された際、お客様に対する遺留分侵害額請求をするつもりはなかったことから、裁判所の許可を得て、遺留分の放棄をしていたのです。
(※遺留分という権利は、裁判所の許可を得ることで、被相続人の生前に放棄することができます。他方、この放棄は裁判所の許可の取消し等を経ない限り、撤回することができません。)

そこで、当事務所の弁護士は、遺留分放棄許可取消審判を申し立てました。
遺留分放棄許可の取消しについては、審判例も多くなく、取消しが認められなかった例も散見されることから、具体的にどのような場合に取消しが可能か判然としていないところがあります。
これに対し、当事務所の弁護士は、遺留分の放棄が被相続人のために各種支払いを行ってきたお客様に自宅を取得させるために行われたことや、新たな遺言書が作成されたことによりその前提となっていた客観的事情に著しい変化があることを主張し、遺留分放棄許可を取り消すことに成功しました。

その後は、遺留分侵害額請求の調停を行い、1人当たり約271万円を獲得する内容で調停を成立させました。

3 所感

遺留分放棄許可の取消しという珍しい手続きを扱いましたが、わずかな審判例を参照しながら工夫を凝らして主張・立証を行い、無事に遺留分侵害額請求をすることができました。
そのうえで、お客様の遺留分を確保することに成功した事例でした。