1 相続人が遺産の処分をしたとき。
2 相続人が3か月の期限内に相続放棄などをしなかったとき。
3 相続人が相続放棄などをした後であっても、遺産の隠匿や費消などをしたとき。

以上の事由に該当するときは、法律上、単純承認(プラスの遺産(資産)もマイナスの遺産(負債)も全て相続することを承認すること)をしたものをみなされます。
最も問題となりやすいのが遺産の処分による単純承認であり、十分にご注意いただく必要があります。
どのような場合に遺産の処分による単純承認に該当するのかについて、以下に整理しましたので、参考にしていただければと思います。

①被相続人の債務の支払

被相続人が支払うべき医療費、公共料金、賃料などの債務について、被相続人の預貯金や現金(つまり、遺産)から支払った場合には、遺産の処分による単純承認に該当するものと考えられます。
一方、被相続人の債務について、相続人の預貯金や現金の中から支払った場合には、遺産に手を付けたわけではありませんので、単純承認には該当しないものと考えられます。

②被相続人の預貯金・現金からの葬儀費用の支払

被相続人の預貯金や現金から相続人が葬儀費用を支払ったとしても、一般的に許容される範囲の葬儀費用にとどまる限り、遺産の処分による単純承認には該当しないものとされる可能性があると考えられます(大阪高裁昭和54年3月22日決定)。
ただし、どこまでが許容される範囲なのか?という問題もありますので、被相続人の預貯金や現金から葬儀費用を支払うことはお勧めしません。

③形見分け

被相続人が生前身に着けていた衣類や身の回りの物など、経済的価値が高くない遺品を形見分けすることは、遺産の処分による単純承認には該当しないものと考えられます(山口地裁徳山支部昭和40年5月13日判決)。
しかし、財産的価値が高い遺品を取得する行為については、遺産の処分による単純承認に該当することがあります(東京地裁平成12年3月21日判決)。

④遺産分割協議

相続人が遺産分割協議をすることは、遺産の処分による単純承認に該当するのが原則です。
しかし、被相続人の多額の債務の存在を知らずに遺産分割協議を行ったケースで、被相続人の債務の存在を知っていれば当初から相続放棄の手続を選択していたであろうと言えるときは、遺産分割協議が要素の錯誤により無効となり(民法95条)、遺産の処分による単純承認に該当しないこともあります(大阪高裁平成10年2月9日判決)。

⑤被相続人の債務の取り立て

被相続人の債権を相続人が取り立てて受領する行為は、遺産の処分による単純承認に該当します(最高裁昭和37年6月1日判決)。